飲食店経営者が必ずぶつかる「3店舗の壁」。プロが教える乗り越え方と成功への鍵

店舗経営の経験を積んでいく中で、「多店舗展開」は誰もが一度は夢見る目標ではないでしょうか。1店舗目での成功、2店舗目での拡大を経て、次の3店舗目へ。しかし、この3店舗目への壁にぶつかり、成長がストップしてしまう、あるいは売上が安定しなくなるという悩みを抱える経営者が非常に多いのが現実です。
あなたのお店はいかがでしょうか?もし今、2店舗から3店舗への展開を考えている、もしくは3店舗目を出したものの、どうも経営が安定しないと感じているなら、この記事は必ずあなたの助けになるでしょう。
今回は、多くの飲食経営者が直面する「3店舗の壁」の本質と、この壁を乗り越えて本当の利益を確保するための具体的な戦略について、私の経験と分析を交えて解説していきます。
3店舗目以降の経営が単なる「店舗の数が増えること」ではなく、「経営のゲームチェンジ」であることを理解し、失敗しないための盤石な土台を築いていきましょう。
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3店舗の壁は「ゲームチェンジ」である

まず知っておいていただきたいのは、1店舗から2店舗、そして2店舗から3店舗への拡大は、単に店舗数を増やすというシンプルな話ではないということです。これは、経営における「ゲームそのものが変わる」瞬間だと認識してください。
1店舗目:オーナーが「プレイヤー」の時代
1店舗目の創業期は、ほとんどのオーナーが店長を兼任する「プレイヤー」です。現場に入り、自ら調理や接客を行い、最高のパフォーマンスを発揮します。
オーナー自らが現場に入ることで、人件費は抑えられ、料理のクオリティやサービスレベルも高く維持されます。この時が、最もお店の「戦闘力」が高い状態です。オーナーの努力が100%自分に返ってくるため、全力で頑張れる環境です。
2店舗目:オーナーが「教育者」への転換
2店舗目になると、オーナーの役割は「プレイヤー」から「教育者」へと変化します。
1店舗目には店長やチームを配置し、オーナーは両店舗を行き来しながら指導・教育を行います。この段階では、オーナーが現場に入る日数は減りますが、極端な話、休みなしで頑張れば両店舗に月15日ずつ入るなど、なんとか「オーナーの目」が行き届く範囲で管理が可能です。
経営としては、まだオーナー個人の努力とスキルに大きく依存している状態と言えます。
3店舗目:現場離脱による「管理崩壊」
そして3店舗目。ここで大きな壁が立ちはだかります。
オーナーが現場に入れる日数は、各店舗あたり月の半分以下(約10日以下)へと激減します。
現場に入る日数が減るだけでなく、店長やスタッフへの教育の時間が圧倒的に減ります。オーナーの不在が常態化することで、以下のような「管理崩壊」の状況が生まれます。
- 教育の質の低下: 店長は教えられる機会が減り、お店が弱体化する
- 戦力の低下: オーナー・店長ともに不在の日が物理的に発生し、店舗のサービスレベルが下がる
- 熱量の差: 雇われた店長が、オーナーが全力で現場にいた時と同じ熱量で売上を維持するのは極めて難しい
つまり、3店舗目以降は、「オーナーが現場にいなくても、高いクオリティと利益を維持できる仕組み」が必須となる、全く新しいゲームに移行するのです。
なぜ3店舗目で利益が薄くなるのか?構造的な問題点

3店舗の壁で多くの経営者が陥る失敗パターンは、売上が下がること以前に、経営全体で見たときの利益が薄くなることです。
高まる人件費と「売上の限界」
3店舗目の展開では、オーナーが現場から抜けるため、各店舗に店長を置く必要があります。これにより、人件費は確実に高くなります。
問題は、人件費が高くなったにもかかわらず、そのコスト増を上回る売上が得られないことです。オーナーが全力で入っていた時の売上を、雇われの店長が超えることは、極めて困難なハードルとなります。
結果として、「人件費は上がったのに、売上は横ばい、もしくはダウン」という状態になり、全体の利益率が急速に悪化してしまうのです。
負のスパイラルを生む「人とお金の配分ミス」
この状況で起こりがちなのが、「人とお金の配分ミス」です。
- 3店舗目に注力: 新しく作った3店舗目を何とか軌道に乗せようと、オーナーが3店舗目に張り付く
- 既存店の低下: すると、オーナーが抜けた1店舗目や2店舗目の売上が下がる
- 悪循環: 売上が低下した既存店を立て直そうとオーナーが戻ると、今度は3店舗目の売上が下がる
この負の連鎖により、どの店舗も中途半端な状態になり、結果的に「2店舗を真面目にやっていた時よりもトータルの売上が下がった」という事態に陥ります。
重くなる「BS」とシビアな財務状況
さらに深刻なのが、「財務状況」です。
3店舗目までの出店には、新たな「借入」が発生します。店舗が3つに増えたことで、バランスシート(BS)は重くなっているにもかかわらず、上述の理由で利益が薄くなっている状態は非常に危険です。
借入の返済が重くのしかかり、エアコンの故障一つで1ヶ月分の利益が吹き飛ぶような、シビアな状況に追い込まれてしまいます。多店舗展開で成功するためには、この「借入に耐えうるキャッシュを生み出す構造」が必要不可欠です。
3店舗の壁を乗り越えるプロの戦略

では、この3店舗の壁を乗り越え、多店舗展開を成功させるプロの経営者は、どのような戦略を取っているのでしょうか。鍵は、「経営体力」をつけることです。
【最重要戦略】まず「旗艦店(フラッグシップ)」を作る
多店舗展開の成功を左右するのは、2店舗目や3店舗目の出店スピードではありません。「1店舗目がどれだけ稼いでいるか」にかかっています。
もしあなたの1店舗目が売上300万円〜400万円程度であれば、そのお店を量産しても、多店舗展開は非常に怖いものになります。
目指すべきは、1店舗目で売上600万円〜800万円を安定的に叩き出し、莫大なキャッシュを生み出す「旗艦店(フラッグシップ)」を作ることです。
- 耐えられる体力: 旗艦店が大きな利益を生み出していれば、2店舗目や3店舗目の立ち上がりが多少遅くても、経営全体で耐えることができます。
- 集中と選択: 常に「この店舗に注力しておけば、他の店舗が多少下がっても耐えられる」という、利益の源泉を一つ確保しておくことが、経営者の心理的な負担も減らし、全体を安定させる最善の方法です。
多店舗展開を目指すなら、まずは「利益を産む基盤店」を盤石なものにしてください。
成功の鍵は「管理(マネジメント)」にある
多店舗展開で失敗する経営者のほとんどが、店舗が増えることで管理がおろそかになっていることに気づいていません。
しかし、経営のプロである私たちが最も重視するのは、「管理(マネジメント)」です。ある事例では、売上が110%程度の伸びだったにもかかわらず、管理の仕組みを徹底することで、利益額が2倍になったというケースもあります。
これは、商品開発や集客などの派手な部分ではなく、日々の発注、原価管理、在庫管理、シフト管理といった地道な管理業務の徹底が、直接的に利益に結びつくことを示しています。
多店舗展開においては、この管理能力をオーナーだけでなく、店長を含む全スタッフが実行できる「仕組み」として構築することが、成功の絶対条件となります。
まとめ:あなたの情熱を「管理」にも向けてください

多くの飲食店経営者の皆さんは、間違いなく「美味しいものを作りたい」「良いお店を作りたい」という情熱を持っています。業態作りや商品作りが好きで、そこに時間と労力を注ぐことは素晴らしいことです。
しかし、多店舗経営のプロとして断言します。
「そもそも管理できていなければ、利益なんか出ない」のです。
あなたの情熱を、業態作りや商品作りと同じぐらいの熱量で「管理」にも向けてみてください。利益の薄さや、店舗のバラつきに悩むことなく、着実に経営を拡大していくことができます。
3店舗の壁は、乗り越えられない壁ではありません。ゲームが変わったことを認識し、「仕組み」と「旗艦店」という新たな戦略をもって立ち向かえば、必ず多店舗展開の成功を掴むことができるでしょう。
ぜひ、今日から管理の重要性を胸に刻み、徹底した仕組みづくりに着手してください。




